士師記講解

２１．士師記２１章１－２５節『交わりの回復』

今日でいよいよ士師記の学びは終わります。今日の御言葉は、２０章のベニヤミンとの戦いにおいて勝利したイスラエルの戦後処理における問題を扱っています。

イスラエルはエフライムの山地に住むレビ人のそばめがギブアのベニヤミン人によって暴行を受けたという報せを聞いて、ミツパに集まって主に伺いつつ一致して戦い、二度の敗北にもめげず三度目に勝利しました。この勝利は主が与えた勝利です。彼らは、主との契約に基づく交わりと一致を失っていました。しかし、この戦いにおいて、彼らは再び主に伺い、主の御心を知って歩むことの大切さを学びました。ベニヤミンの悲しむべき罪こそ、彼らのうちにあった不一致と不信仰の現れでありました。主は、この彼らの破れと罪を裁くことによって、その失われた交わりの回復へと向かわせようとされています。

アカンの罪のように聖絶のものを盗んだものは聖絶にされなければならないという論理に従うなら、ベニヤミンは同じ主の民に対して加えた汚辱の罪であるだけに滅ぼし尽くされても当然でありました。しかし、主は６００人の者を残されました。ここに主の大きな哀れみが表されています。この６００人は主の哀れみによって残されたのです。

しかし、主の御心はイスラエルの１２部族に明らかにされないで秘密にされたままでした。主の御心を知らないイスラエルは、激しい戦いのあとミツパでこの戦いに参加した者は誰も自分たちの娘をベニヤミン人には嫁がせないと誓いを立てていたことを悔やむようになりました。ベテルにきて、激しく泣いて、「なぜイスラエルにこのようなことが行われたのか、今日、イスラエルから一つの部族が欠けることになったのですか」と主に伺いを立て、その翌日になって、祭壇を築き、全焼のいけにえと和解のいけにえをささげました。

しかし、このような彼らの訴えにもかかわらず、主の答えは現されていません。イスラエルは焦りました。彼らは主の答えがないのにその原因を自らの手で究明し、その解決を図ろうと致しました。彼らがこの自問自答の中で見出した結論は、ミツパに集合をかけたときに集まらなかったヤベシ・ギルアデの住民の男と男と寝たことのある女を聖絶し、残った若い処女四百人をシロに連れてきて、ベニヤミン人に和解を呼び掛けてこれに答えたので、この四百人を与えることによって、ベニヤミンを残すという解決策です。それでもベニヤミン人たちのために二百人の娘が足りないので彼らは困りました。イスラエルは自分たちの娘をベニヤミン人の妻に与えないと誓っていたので、毎年祭りのときに集まって踊るシロの娘たちを奪って、ベニヤミン人たちの妻とするよう契約を結ぶことによって解決を図りました。ここには一面、失われた信仰の熱心の回復の兆しがあるように思われます。

しかし、彼らは主の御心を求めないまま、この計画を実行致しました。この事は彼らの自惚れ、思い上がった高慢、横暴を示しています。彼らのあいだで成された一致と交わりの回復への努力は、表面的で真の信仰からでたものではありません。それでも、ベニヤミンの部族を残すことに成功致しましたし、イスラエルには平和が回復されました。

主は、このような彼らの罪にも係わらず、彼らの願いを叶え、一致と交わりの回復を実現されました。それは丁度、神が、イスカリオテのユダをはじめユダヤ人指導者やローマの役人の罪のを用いつつ、主イエスを十字架につけてその贖いをなし遂げられたように、歴史を支配しておられる主の御心としてなされました。イスラエルの民はこのことに正しい信仰の認識と自覚を欠いていました。しかし、彼らのこのような弱さと罪があるにもかかわらず、主の御心は一つ一つ実現しています。

ここにも主イエスの贖いの勝利の力が表されています。主イエス・キリストの御霊がイスラエルの民のあいだに働いて、繰り返し堕落の中からイスラエルの信仰を呼び覚まし、一致へと導かれます。この主の歴史支配こそ救いです。主イエスは今もわたしたちに歴史を通し、歴史を越えたところから、歴史を支配しておられます。聖霊はこの主の救いの業をわたしたちの間に実現してくださるのです。

士師記は、「そのころ、イスラエルには王がなく、それぞれ自分の目に正しいとすることを行っていた。」と結んでいます。この２１章の出来事がまさに、「めいめいが自分の目に正しいとすることを行っていた」ことの証左です。主の贖いはこのような自惚れの罪の中にあるものの愚かさを打ち砕きつつ、恵みによってもたらされるものであることを、明らかにしながら実現されます。旧約聖書はこの歴史の中で織りなす人間の罪と神の赦しの恵みを繰り返し明らかにしつつ、イエス・キリストの来るべき救いを指し示します。

士師記には、余りにも人間的な罪とどろどろした醜い出来事が繰り返し記されています。しかし、これが神の選びの民イスラエルの現実です。そしてそれは、わたしたちの罪の現実でもあるのです。このような罪深き者が神の民として残されるのは神の赦しと憐れみによるほかないのです。神はベニヤミンの六百人を憐れんだように、わたしたちをイエス・キリストの贖いの故に残し憐れんで下さるのです。